白鳥の湖 ~オディールのヴァリアシオンはどこから来た?~

とても有名な白鳥の湖ですが、有名なだけに沢山の振付家によって改訂振付や解釈がされており、星の数ほどというのは大袈裟でも、沢山のバージョンが存在しています。

原曲には存在していても全幕上演時には演奏されない曲や、バランシン振付のチャイコフスキーパ・ド・ドゥのように後年発見されて新たに振付された曲、チャイコフスキーによって初演後に追加された曲なども存在します。
上演の歴史や原曲の改編曲の歴史などを辿ってみると、振付家によって異なる色々な解釈について理解がし易くなるように思います。

雑学なども交えながら、バレエ「白鳥の湖」をおさらいしてみたいと思います。
少し長くなりますが、宜しかったらお付き合いください

上演の歴史
白鳥の湖は1877年ボリショイ劇場で、チャイコフスキー作曲、ヴェンツェル・ライジンガーの振付によって初演されました。後に眠れる森の美女、くるみ割り人形などを作曲するチャイコフスキーですが、白鳥の湖は初めて手掛けたバレエ音楽です。
当時バレエ音楽は専門の作曲家、チェーザレ・プーニ、ルートヴィヒ・ミンクス、レオ・ドリーブ、アドルフ・アダン、リッカルド・ドリゴなど、現在でもバレエ音楽に名前を残している作曲家によって手掛けられていました。
チャイコフスキーはバレエ音楽を作曲するにあたって、彼らバレエ音楽専門の作曲家に学んだといわれています。
あまり評判がよくなかったとされていますが、それでも暫くは再演されており、衣裳・舞台装置の破損のためいつしかお蔵入りとなったといわれています。
その後1895年にプティパとイワノフによって再振付され、音楽はドリゴが編曲し、マリインスキー劇場で蘇演されました。
現在上演されている白鳥の湖は、この1895年の蘇演版が元になっているものが殆どのようです。
オデットとオディールが1人2役で踊るのは、1895年の蘇演版以来定着しているようです。
この蘇演版では、原曲の曲順が入れ替えられたり、曲がカットされたりしました。三幕でお馴染みの曲が原曲では実は一幕だったり、カットされた曲が後年別の作品として甦ったりしています。
そして白鳥の湖はその後沢山の振付家によって色々な版が作られています。
原曲により近い形で振付された版
王子に影響を与える家庭教師が登場する版
各国の花嫁候補たちが三幕の各国の踊りを踊る版

プティパ=イワノフ版のあらすじです。

第一幕 王子の成人のお祝い
王子の成人をお祝いする宴が開かれています。
ワルツの後に、王子の友人ベンノと2人の村娘によるパ・ド・トロワが披露されます。
3人によるアダージオ、村娘1のヴァリエーション(以下Va.)、ベンノのVa.、村娘2のVa.、コーダという構成が一般的ですが、元々はアダージオの後に村娘2人によるVa.がありました。
このVa.の曲は版によっては第1幕で王子のVa.に使用されることもあります。
王妃が現われ、舞踏会でお妃を選ぶよう王子に言いつけますが、王子はあまり乗り気ではありません。
憂鬱そうな王子を元気付けるように友人ベンノが乾杯を促して、乾杯の踊りにつながります
その後王子は、気晴らしに狩に出かけます。

第二幕 湖畔の場
狩に出かけた王子は湖で1羽の白鳥が美しい女性に変身するのを目撃します。
女性はオデット。

沢山の版がある白鳥の湖ですが、殆どの版でこの湖畔の場はプティパ・イワノフによる振付が採用されています
王子とオデットの出会いの場面のアダージオ。
白鳥たちのワルツ。
オデットと王子のグランアダージオ。
白鳥たちの踊り。

3幕のディベルティスマン
有名な黒鳥と王子のグラン・パ・ド・ドゥや各国の踊りが披露されるのが3幕です。(湖畔の場を1幕第2場としている場合は、この場面が2幕になります。)
この場面はジークフリート王子の成人を祝う舞踏会の場面です。
各国の民族舞踊が披露され、王妃が招待した花嫁候補たちが踊りますが、王子はオデットが忘れられずどの候補も好みじゃない…
そこに登場するのがロットバルトとその娘オディール。
ここで披露されるのが、オディール(黒鳥)と王子のグラン・パ・ド・ドゥです。

現在オディールと王子のアダージオとして使用されている曲は、元々は第1幕で王子とコートレディのパ・ド・ドゥとして作曲された音楽です。1895年の蘇演の際に、ドリゴによって第3幕のオディールと王子のアダージオの曲として使用されました。
今となっては、オディールと王子のパ・ド・ドゥはこの曲以外考えられない、と思えるくらいこの場面にぴったりに感じます。
王子のVa.の曲も元々は第1幕王子とコートレディのパ・ド・ドゥとして作曲された曲です。
一般的によく踊られるオディールのVa.には2種類あります。
ボリショイ版のVa.は第3幕のパ・ド・シス(後程触れます)として花嫁候補のVa.として作曲されたもの、マリインスキー版のVa.の曲は白鳥の湖のために作られた曲ではなく、チャイコフスキー作曲のピアノ曲作品72-12「いたずらっ子」が使用されています。
プティパ=イワノフの蘇演版では、この「いたずらっ子」の曲がオディールのVa.として使用されました。



各国の踊りについては、悪魔ロットバルトが各国の民族舞踊を踊るダンサー達を引き連れて現われ、次々に踊りを披露する、という解釈の版も存在します。
また、スペインの踊り手だけがロットバルトの手下、という設定になっている版も存在します。(アプロンの第10回発表会ではこの設定でした。)
各国の民族舞踊を各国の花嫁候補が踊るという版も存在します。

ところで少し戻りますが、花嫁候補の踊りに独自の解釈を加えている版が、ジャック・カーター版の白鳥の湖です。
ジャック・カーター版では、オディールを花嫁候補の1人に加えています。
5人の花嫁候補が踊った後、最後の1人の候補としてオディールが登場します。

この花嫁候補の踊りですが、元々第3幕にはパ・ド・シスとしてアントレ、第1~第5Va.,コーダがあり、5人の花嫁候補と王子が踊る場面がありました。それがプティパ版ではカットされたため、その後制作された殆どの版ではパ・ド・シスはカットされています。
ジャック・カーター版では、所謂チャイコフスキー・パ・ド・ドゥの女性Va.の曲(これは元々、第3幕でオディールのVa.として作曲されました)を加えて6人の花嫁候補としており、その中でオディールが踊るのは、グリゴローヴィチ版(ボリショイ)でオディールが踊るVa.の曲です。

パ・ド・シスの曲の一部を使用してパ・ド・カトルとして男女4人で構成される踊りが挿入されている版もあります。
先日NHKで放送された英国ロイヤルバレエ団の白鳥の湖(アシュトン版をリアム・スカーレットが再改訂)はパ・ド・シスの曲の一部(アントレと第1バリエーション、第4バリエーション、コーダ)を使用して、男女3人のパ・ド・トロワとして構成されていました。

プティパ版を元にした多くの白鳥の湖の花嫁候補の踊りは、6人の花嫁候補が一緒に踊ります。
プティパ版でパ・ド・シスがカットされたのは、オディールの存在をより鮮明に際立たせるためだった、と説明している資料もありました。
確かに軽やかなワルツで6人の花嫁候補が一緒に踊った後に登場するオディールは、その存在がより強く印象に残ります。
それに比べて各花嫁候補の自己主張がかなり強い印象なのがジャック・カーター版です。
花嫁候補の中にオディールを混ぜて王子を惑わせる感じが強く出ています。

白鳥の湖から生まれたチャイコフスキー・パ・ド・ドゥ
白鳥の湖は、チャイコフスキーが初めて手掛けたバレエ音楽です。初演時には多くの曲が削られたり、加えられたりしたそうです。
バランシンの振付で有名なチャイコフスキー・パ・ド・ドゥの曲は、初演後に主役を踊る予定になっていたバレリーナ、アンナ・ソベシチャンスカヤの依頼によって作曲されたと言われています。
彼女は、初演時のオディールと王子のグランパドドゥの振付も音楽も気に入らず、ミンクスに作曲を、プティパに振付を依頼しました。がこれに激怒したのがチャイコフスキーです。自分の作曲以外の曲が白鳥の湖に加えられるのはまかりならない、ということです。そこで協議、交渉の結果、プティパの振付をそのままで踊れる曲をチャイコフスキーが作曲する、というところに落ち着きました。そして作曲されたのがチャイコフスキー・パ・ド・ドゥです。
ところが、この音楽はプティパ=イワノフ版では採用されなかったため、長くお蔵入りとなっていました。
その楽譜が1950年代に発見され、バランシンによって振付され、独立したグラン・パ・ド・ドゥとして発表されました。

第4幕
王子の裏切りに深い悲しみに沈んでいるオデット。湖に身を投げ、それを王子も追って天国で結ばれるという結末と、王子が悪魔を打ち負かし、めでたく人間に戻ったオデットと王子が結ばれるという結末が存在します。
結末の好みはそれぞれですね。

白鳥の湖が全曲収録されていると言われているCDがこちらです。サイトの中で一部試聴出来ますので、ご興味のある方は聴いてみてください。(CDは絶版となっています。)

https://www.hmv.co.jp/artist_%E3%83%81%E3%83%A3%E3%82%A4%E3%82%B3%E3%83%95%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%BC%EF%BC%881840-1893%EF%BC%89_000000000018904/item_%E3%83%81%E3%83%A3%E3%82%A4%E3%82%B3%E3%83%95%E3%82%B9%E3%82%AD%E2%88%92%EF%BC%9A%E3%83%90%E3%83%AC%E3%82%A8%E9%9F%B3%E6%A5%BD%E3%80%8C%E7%99%BD%E9%B3%A5%E3%81%AE%E6%B9%96%E3%80%8D-%E3%83%9C%E3%83%8B%E3%83%B3%E3%82%B0%E6%8C%87%E6%8F%AE%EF%BC%8F%E3%83%8A%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%8A%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%83%95%E3%82%A3%E3%83%AB%E3%83%8F%E3%83%BC%E3%83%A2%E3%83%8B%E3%83%BC%E7%AE%A1%E5%BC%A6%E6%A5%BD%E5%9B%A3_756174

今回のアプロンの発表会では白鳥の湖第三幕を上演します。
先日、オディールと王子のグラン・パ・ド・ドゥと花嫁候補のリハーサルが同時進行し、オディールのキラキラした踊りに花嫁候補たちはどうせ選ばれない事がわかっている出来レース、とつぶやいていました

今回は、第10回発表会で上演したものとは少し違った構成になっています。
皆様ご期待ください

画像


この記事へのコメント

この記事へのトラックバック